認定番号 第207号
認定理由
旧九条湯は、南区東九条に位置する銭湯建築である。登記簿資料から、建物は昭和5年(1930)頃に建築されたと考えられる。現所有者の先代は、戦後、南区内で「辻湯」を創業したが、昭和35年(1960)に現在の九条湯の施設を購入し浴場を移転したという。九条湯は平成20年(2008)に銭湯の営業を終え、レンタルスペースとして活用されることとなった。
東西の細い通りの北側面に建ち、入口の左右には塀を廻す。木造2階建、桟瓦葺の脱衣場棟の背面に、煉瓦造と考えられる浴室が接続する。背面にはボイラー室と煙突が建っていたが、銭湯廃業後の改修により撤去された。脱衣場棟は入母屋造の屋根を妻入に入る形式で、玄関部分には銅板葺の唐破風を備える。玄関を入ると当初からの番台が残り、右手を女湯、左手を男湯としていた。天井を折上げ格天井とし、両室の境には上部に透かし欄間を嵌めた、鏡入りの仕切り壁を設けている。浴室との境には手洗いの流しが設けられ、上部の壁面にはモザイクタイルによる壁画が嵌められている。浴室は切妻造屋根の内部をヴォールト天井として、中央に湯気抜きと採光のための腰屋根を設けている。脱衣場の2階には4室の和室が配され、表側左手の8畳間はアカマツの皮付材を床柱に用いた床と違い棚を備えている。昭和35年の営業開始の頃には、2階は生活空間として用いられたという。
旧九条湯は、南区に残る昭和初期に建築された銭湯建築である。近年の廃業後も建物が保存され、銭湯の空間構成を残しつつ活用が図られている。市内の銭湯の廃業が相次ぐなかで、昭和初期の銭湯建築が新たな用途によって継承され、その景観を伝える事例として貴重である。
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