京都を彩る建物と庭園

認定 松乃鰻寮
(まつのまんりょう)
[Matsunomanryo]
所在地 左京区  選定番号 第10-040号

推薦理由(抜粋)
 上田恒次に設計を依頼し,昭和40年(1965),上田氏自邸の隣に木造2階建てを建てたのが始まり。増築され,城を思わせる豪壮な店舗が完成した。



認定番号 第222号

認定理由
 岩倉木野に所在する鰻料理店で、建物は民藝運動にも参加した陶芸家・上田恒次の設計によるもの。上田は同地に隣接する自邸(昭和12年)や保田與重郎邸(昭和33年)など多数の建築を設計したことが確認される。にしんそばの老舗「松葉」の家に生まれた松野里香氏は、昭和14年(1939)に「祇をん松乃」を創業し、戦後同店は鰻料理専門店となった。十二段家の西垣光温氏を介して河井寛次郎から上田を紹介された松野氏は、彼の建築作品に惚れ込み設計を依頼したという。上田家の隣地を譲り受け、まず、昭和40年(1965)に街道に面した2階建て建物と門が建てられた。この建物は上田の好んだ茶褐色の陶板を外壁に貼る意匠である。同42年(1967)、背後の斜面上に主屋が建築された。斜面の石垣は、上田が姫路城を訪れた際の印象から着想したものという。やがて顧客からの要望もあり、「松乃鰻寮」店舗として用いられることになった。
 主屋は東側を2階建、西側を平屋建とする瓦葺の建物で、真壁造の木部に赤ベンガラ塗を施す上田が繰り返し用いた外観意匠である。玄関は2階部分をせり出す出桁造の外観であるが、通常の民家に比べて軒の出が殊に深い。玄関を入ると12畳大の板間で、階段が設けられる。吹抜け部分の天井は丸太の梁と簀の子天井で民家風を演出するが、階上は吹き抜けに面したギャラリーが廻る近代的な空間である。2階はこの階段室の表側に和室3室、奥側に仏間などが配されている。広間から東側は平屋建の部分で、6畳の次の間と、12畳に2畳大の付書院まわりの空間が付く座敷となり、表側には入側縁が設けられている。座敷の床まわりには木太いケヤキ材を多用し、豪壮な民家の意匠を演出する。天井は太い棹縁天井にベンガラを塗る意匠で、河井寛次郎記念館など民藝運動による作品にしばしば見られる意匠である。
 松乃鰻寮は、民芸運動にも参加した陶芸家・上田恒次の作品で、日本民家の意匠を強調しつつ近代的な感覚を取り込んだ空間をつくっている。周辺の上田作品とともに独特の集落景観を構成している。